脳内模写

言葉で描ける考え事の断面。

有限の光

絵の具を混ぜると少ない色から沢山の色を作ることができる。作れる色は元の種類よりも確実に多い。白と黒と赤だけでも深い紅、柔らかいベージュ、乾いた茶色、透き通った桃色、無数の色が表現できるし、青と黄から緑が作れることは未だに不思議でならない。そもそも人間は赤緑青の三種類だけから無数の色を認識している。色はこの世界が持つ単純さと複雑さを同時に味わえる現象のひとつだろう。色という言葉から僕はまず広がりや驚き、前向きさを感じるものの、時々その明るさに押し潰されそうになる。

薄暗い記憶として思い出されるのは小学校の図工の時間。何度も何度も混ぜすぎてどす黒くなった絵の具がパレットや水差しに染み付いて忌々しい。何もかも思っていたのと全然違う。無い方がよかった物が目の前にある。恥と後悔。色は光からできていて、光の色は混ざれば混ざるほど淡く軽くなっていくはずなのに、どうして絵の具の色はどんどん鈍く汚くなるんだろう。自分も世界もそういうもののような気がして嫌だった。

間違ってこの世に来てしまったものについて考えると行動が怖くなる。僕は長い間、三十路の手前まで、可能なら何もしないでいたかった。この世界に何か手を加えるのはとても恐ろしいことだから。自分が始めることの全てが自殺行為なんだと本当に思っていた。それが狂ってるのはわかってたけど考えずにはいられなかった。

僕の行動の大半が些細で大した事では無いのだと実感できたのがいつ頃だったたかはもう覚えていない。けどそれ以来、何か大事なブレーキを壊してしまった気がしている。

いま僕はとても不安な気持ちになっている。 それを残しておこうと書き初めたものの、別にこんなことを言いたかったわけでは全くない。だけどこの文章がこの世に無くていい物だったとは思いたくない。