脳内模写

言葉で描ける考え事の断面。

誕生日に贈り物を届けてくれる、そんな人のお話。

少し空想の話をしようか。
これは僕のお伽話だけど、もしかしたらあったらいいね、だなんて話なんだ。

恋人よ。

街には路傍で寝ているおじさんたちがたくさんいるよね。これはその人たちの中の一人のおじさんの、優しい優しいお伽話。君が眠りにつくときに聞かせてあげるよ。

誕生日おじさんの話を知っているかい。君の生まれた日を祝って贈り物を届けてくれる人のことだよ。彼はどこから来てどうして君の欲しいものを知っているんだろう。それは、彼が道端で君たちの話し声に耳を傾けているからなんだ。

雑踏の中で僕たちは様々な話をするよね。そのなかで、贈り物の話に対しては、彼の聞き耳が一層そばたでられるんだ。そうするために彼は家を捨てた。都会の中の片隅で身をうずめながら、蔑まされることなんて厭わずに。
もちろん、人にものを贈るには実入りが必要だね。彼はきちんと収入がある。でも、自分のために使うことはせず、ほとんど全てを誰かに与えるために費やすんだ。

僕が君に渡すこのプレゼントも実は彼から託されたものなんだ。なんて言ったら君は、僕が選んだり自分で手に入れたのではないんだと、がっかりするかもしれないけど、僕が君にあげようと思った贈り物が不思議と手元にあった。彼がくれただなんてことは到底知りえないことだけど、僕はきっとこれを置いてくれたのは彼こそがそうだなんだって信じるよ。

なんてことを恋人に言ったらさ、あったらいいね、ハハハと、笑ってくれた。それを友達に言ったらバカみたーいって言いながらも彼女たちの笑顔は決して嘘ではなかった。僕はその顔が見られただけでとても満たされた気持ちになれたんだ。

ありえない、と一蹴するのはいいけれど、あったらいいねって少しでも思ってくれれば僕は嬉しいよ。そうして世界が優しくなるならばね。